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コロンビア歴史物語 第13話

2002年からFARCに誘拐されていた女性国会議員のクララ・ロハスは6年ぶりに解放されたとき、自分を監禁していたゲリラ兵士との間に一児をもうけていた。監禁中にゲリラに強姦されたのか、それとも互いに愛し合って子供を作ったのか、そのどちらかは不明である。

生まれた男の子はジャングルの中で母子ともども厳しい監禁生活を送るわけにもいかず、生後間もなく母の手から引き離され、ボゴタの孤児院に預けられた。

実はこの時、FARCは最後までロハスの解放を渋っていた。母子ともども解放すると約束していたのである。ところが、ロハスの子はすでに孤児院に預けてある。だから母子一緒に解放することは出来ない。おそらくFARCはロハスの子を必死になって捜し、取り戻そうとしていたのだろう。

だがこの時すでにウリベは孤児院に預けられていたロハスの子を捜し出し、もうとっくに赤ん坊は政府の手で保護されていることをアピールしたのである。FARCは母子を解放することで「人道的」なイメージを演出しようとしたのだろうが、見事にウリベに覆されたわけだ。


解放された人質たちはコロンビアのジャングルで国際赤十字のスタッフに引き渡された後、ベネズエラのカラカスにヘリコプターで運ばれ、チャベスの歓迎を受けた。

人質たちは記者会見で交渉を仲介したベネズエラ政府の尽力に感謝し、口々に交渉を妨害したウリベの対応を非難した。マスコミの力は強い。チャベスは人質を利用して意趣返しをしたのだ。チャベスもやるなあ。

さらにチャベスは思想的に近いFARCを擁護し、

「コロンビアのゲリラはテロリストじゃない。反乱軍だ。コロンビアの寡頭体制に抵抗する反乱軍だ。だから彼らを正規の軍隊と認め、テロ組織の指定を解除すべきだ」

などと発言した。これにはコロンビア政府もコロンビアのテロ被害者も反発し激怒した。


だが、これもウリベの計算の内だった。常に冷静なこの男の頭には父を殺したFARCへの復讐のシナリオが描かれていた。


2008年3月1日早朝、コロンビア空軍のジェット戦闘機(ブラジル製スーパー・タカノ)が国境を越えてエクアドル領内に侵入し、国境から10キロも南下した後、急速に方向転換し、国境3キロの地点にあるFARCキャンプを空爆した。

この時、キャンプではFARCナンバー2でスポークスマンのラウル・レイエス(本名ルイス・エドガル・デビア・シルバ)とその家族、兵士らが寝泊まりしていた。

突然の轟音とともに戦闘機からインテリジェンス爆弾が投下された。これは爆発すると周囲700メートルに破片を撒き散らし、地上にいる人間をまんべんなく殺傷するという恐ろしい兵器だ。


この爆撃でレイエスと家族、兵士の計23人が死亡。負傷者も多数出た。夜明けとともにコロンビア軍の特殊部隊が国境を越えてキャンプに入り、レイエスの遺体を回収し、生存者を並べて銃弾を撃ち込み息の根を止めた。そしてコロンビア側に引き揚げた。

当初、この事件を当事国エクアドルのラファエル・コレア大統領は冷静に受け止めていた。ところが、エクアドル軍の現場検証の結果、ゲリラたちが寝ようとしてパジャマ姿だったところを急襲され殺害されたことを知り、烈火の如く怒り出した。


ウリベはコレアに電話で状況を説明し、テロリスト掃討のためのやむを得ない軍事行動だった、事前通告しなかったのは遺憾である、と話した。しかしコレアは自国の主権を踏みにじられたと怒り、コロンビアとの国交を断絶すると言い出したのである。

これに素早く反応したのがチャベスだった。チャベスはただちに軍隊をコロンビアとの国境周辺に配置し、臨戦態勢に入った。

「もしコロンビア政府が自国に対しても同じようなことをするなら、戦争も辞さないから覚悟しておけ!」

という事実上の宣戦布告である。チャベスはエクアドルに飛んでコレアを励まし、ふたりはコロンビアの主権侵害行為を非難すべく周辺国に協力を呼び掛けた。


これに応じてニカラグアのダニエル・オルテガ大統領もコロンビアとの国交を断絶すると表明した。ニカラグアはコロンビアと隣り合っていないが、カリブ海に浮かぶ島の領有権を巡ってコロンビアと対立し、このほど国際司法裁判所がコロンビアの主張を認めてコロンビアに領有権を与えたばかりである。その意趣返しをしたのだ。

事態は二国間の外交問題から南米全体の政治問題に発展した。ただ、強硬なエクアドルとベネズエラに同調する国は限られ、多くの国はコロンビアの行為を非難しながらも事態を静観する構えだった。

アメリカ政府はコロンビアの立場を全面的に支持した。しかし南米でコロンビアを積極的に支持する国はついに現われなかった。


テロリストを殺すために他国の領土を侵犯することも厭わない国は、アメリカとイスラエルくらいのものだ。

襲撃時、エクアドルのキャンプにはメキシコやニカラグアの左翼の学生もいた。負傷者はニカラグアの病院に運ばれ手当てを受けた。

国際的な批判を浴びたウリベはエクアドル政府がゲリラをかくまっていると非難した。そして、とっておきの切り札を切るのである。


3月3日、コロンビア国家警察のビクトル・ナランホ長官はキャンプで押収したFARCのノートパソコンを解析した結果、チャベスがFARCに3億ドルの資金を提供していたことが判明したと発表した。

さらにFARCが核物質のウラン50キロを購入していたことも明らかにした。ウランって原爆を作る気だったのか?いや、FARCにそんな技術力はない。ウランはあくまでも売って資金源にするつもりだったようだ。

それはともかく、チャベスが資金提供をしていたという事実が暴露されてしまったことで、チャベスは苦しい立場に追い込まれた。慌てたチャベスは、

「そんなのコロンビア政府のでっち上げだ!捏造だ!嘘つき政府お得意の捏造に決まってるじゃないか!」

と反論した。しかしインターポール(国際刑事警察機構)による中立的な検証の結果、コンピュータの記録に捏造された痕跡はなかった。するとチャベスは苦し紛れに、

「まったく、コロンビア政府の嘘つきぶりには呆れるわい!インターポールも大した嘘つきのピエロだ!」

と愚痴るだけ。チャベスがゲリラとつながっているのは誰もが知っていることだ。そんな下手な言い訳なんぞ今更通用しない。


子供のケンカじみてきた南米の政治危機は、3月7日、ドミニカ共和国のフェルナンデス大統領の仲介により紛争当事者が互いに握手して仲直り。南米諸国はコロンビアの行為を非難しつつも、制裁などはせず、この問題はうやむやな形で決着したのである。

この外交ゲームの最大の勝者は誰だろうか?素早く南米をまとめて行動力を見せつけたチャベスに軍配が上がりそうだが、筆者(土屋)はウリベの勝利だったと思っている。

「肉を切らせて骨を断つ」

という言葉があるが、ウリベはまさしくそれだ。コレアとチャベスを怒らせ、オルテガにも騒がせておいて、チャベスの資金提供という「爆弾」を落とした。チャベスは振り上げた拳の行き場がなくなり、結局引っ込めざるを得なかった。

ただ、そんなウリベにも誤算があった。エクアドルという南米の小国を舐めていたことである。

南米諸国が結束してコロンビアを非難するという事態は想定外だったのではないか。この外交危機でコロンビアはアメリカの支持は得られたが、南米では浮いた存在となり、最後まで積極的な応援は得られなかった。

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プロフィール

土屋正裕

Author:土屋正裕
画像は南米コロンビアの首都ボゴタ中心部のボリーバル広場。明星学苑卒。

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