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Author:土屋正裕
画像は南米コロンビアの首都ボゴタ中心部のボリーバル広場。明星学苑卒。



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誰も知らない 第1話

誰も知らない

大学生の長沼寛人と山田陽介は夏休みを利用して、南アメリカ大陸をヒッチハイクで縦断する旅に出発した。
長沼と山田は高校の同級生で、大学は別々だったが、山田はスペイン語を学んでおり、長沼はジャーナリストになりたいという夢に向かって勉強していた。
無謀とも言える冒険旅行に両親の強い反対を押し切って出発した理由は、
「どうせ大学を出て社会に出たら、こんなことは経験できないんだ。今のうちにいろんなことを体験して、人生の幅を広げておきたいんだよ」
長沼は旅行計画に大反対の両親を説き伏せ、
「帰ってきたらバイトでも何でもして返すからさあ……」
と粘り、4つ年上のOLの姉から旅費を借りた。

「ヤマさんとこはどうだった?」
成田からアメリカに向かう飛行機の機内で山田に聞いてみた。
「うちはオヤジが単身赴任で滅多に家に帰ってこないしね。オヤジが知ったら猛反対しただろうけど、うちはオカンが理解あってね。おかげでバイクも乗れたし、何でも好きにさせてくれるよ」
「いいなあ、ヤマさんとこは理解があって」
長沼は羨ましそうに言った。
「うちのヨースケちゃんはね、親思いの優しい子でね、お勉強もできるし、バイトも頑張るし、小さい頃から全然手がかからなくって、本当にいい子なんですよ……」
山田とは高校で知り合い、東京郊外の稲城市に住む長沼は、町田市に住む山田の実家によく遊びに行ったが、小柄でメガネをかけた人懐こい性格の山田の母親から何度も息子の自慢話を聞かされたものだった。
「かわいい子には旅をさせよ、ってね。旅費も出してくれたよ」
山田は天然パーマの髪をゴシゴシこすりながら言った。
「いいなあ。俺もヤマさんとこに生まれたかったなあ」
色白で、まだ少年のあどけなさが残る長沼は、何かにつけて実家が裕福な山田と比較しては羨望のまなざしを向けるのだった。

長沼と山田はアメリカ経由で出発地となる南米最南端のチリに向かった。
首都サンティアゴからさらに南のプエルトモントという町に向かい、この町からヒッチハイクで南米を縦断する計画だった。
「いよいよだね、ヤマさん」
「なんか緊張するね」
長沼と山田は段ボールの板にマジックで行き先を記して道路脇に立った。

旅は順調に始まった。
トラックや自家用車に乗せてもらい、夜はなるべく安い宿に泊まりながら、長沼と山田はチリからボリビア、ペルー、エクアドルと国境を越えた。
ボリビアでは標高4千メートル級のアンデス山脈の高地でソローチェ(高山病)に苦しみ、ペルーの首都リマでは警察官に「偽札を持っているな」と難癖をつけられ、危うく所持金を奪われそうになった。
エクアドルではヒッチハイクした車の運転手がキ印で、スピードを出しすぎ、くねくねと蛇行した狭い山道でカーブを曲がりそこね、車ごと横転して死にかけたりとアクシデントの連続だったが、スペイン語に堪能な山田のおかげで何とか乗り切ることができた。
「ヤマさんのおかげだよ。ここまで来れたのも」
「なんの。俺だってナガヌマちゃんがいなかったら張り合いがなかったよ」
「次はコロンビアか。いよいよ旅も終わりに近付いてきたね」
「そうだね。もう一息だ。がんばろう」
エクアドルで事故に遭ったとき、長沼は肘と膝を思いっきりぶつけ、山田は首を痛めたのかしきりに首筋をさすっていた。
「ヤマさん、大丈夫?」
「なんの。これくらい、どうってことないさ」
あちこちに擦り傷をこしらえ、持っていた絆創膏は使い果たしてしまったが、山田は健気に言った。
「この傷は俺たちの勲章だよ。痛みもいい思い出になるさ」

長沼と山田はエクアドルの首都キトからコロンビアに向かうトラックに乗せてもらった。
「お前たち、どこに行くんだ?」
髭面の運転手は明るい性格で、気さくに話しかけてきた。
名前は「チコ」という。
「俺たち、日本から来たんだ。南米を縦断するんだよ、ヒッチハイクで」
「そりゃ大変だなあ」
チコは笑った。
トラックは国境を越えてコロンビアに入国した。
コロンビア西部の大都市・メデジンまで荷物を運べば仕事は終わるという。
チコは帰りを待つ家族の話をし、愛する妻と子供たちの写真も見せた。
長沼は運転席の日よけに挟み込まれた雑誌を見つけた。
何気なく手に取ってみると、いわゆるエロ本である。
「チコは奥さんもいるのに仕事中はやっぱり淋しいんだろうな」
「家庭を大切にしてるんだよ」
山田がたしなめるように言った。
「なんだ、意外とエロくないね」
日本のエロ本と違い、きわどいヌードは載っていない。
「キリスト教カトリックだからね。案外、そういうのには厳しいんだよ」
「でも、みんな美人だね」
「コスタリカ、コロンビア、チリの頭文字を取って美人3C国と言われるくらいだからね。混血が多いからだろうね」
「ああ、なんかしたくなってきた」
長沼は旅に出てからずっとマスターベーションをしていないことに気付き、慌てて股間を手で押さえた。
「ヤマさん、これでオナニーしたくなってきたよ」
「おいおい、そんなこと俺に言わせるつもりか?」
「チコに頼んでみてよ」
「自分で言うんだな。なんて言うかは自分で考えるんだ」
山田は苦笑した。

トラックはアンデスの緑美しい山道を走っていく。
と、急に停まった。
「インスペクシオン(検問)だ」
チコが言った。
前方に車列が並び、軍服姿の兵士たちが検問をしているのが見えた。
「やべえ!これ隠さなきゃ」
長沼は慌ててエロ本を日よけに戻した。
「なーに、平気さ」
山田は冷静だった。迷彩服を着た若い兵士が近寄ってきて、運転席を覗き込んだ。
「お前たちは何者だ?どこから来た?」
「俺たちはハポネス(日本人)だよ。ヒッチハイクで南米を縦断するんだ」
山田が説明した。
「トゥーリスモ(観光)か?危険だぞ。ゲリラが獲物を狙ってるからな」
「ゲリラ?」
「ああ、お前たちのような外国人は狙われる。高く売れるからな」
そう言われて少し不安になったが、
「なーに、うちは貧乏だから平気だよ」
と長沼は笑った。
次の瞬間、ドンッという鈍い爆発音が響いた。
「ゲリラだ!」
左側の山の斜面から茂みに潜んでいたゲリラ部隊が一斉に襲いかかってくるのが見えた。
赤いスカーフで覆面をしたゲリラ兵士が旧ソ連製のカラシニコフ小銃を構え、映画でしか見たことのない銃撃戦が本当に目の前で始まった。
トラックのフロントガラスに蜘蛛の巣状のヒビが走り、空気を切り裂く銃声が耳を打った。
恐怖で体がすくんで何もできない。座席で固まっていると、
「逃げろ!早くしないと殺されるぞ!」
チコに押されて長沼と山田はトラックから飛び降り、荷台の陰に隠れた。
「お前たちは外国人だ!奴らに捕まったら生きて帰れないぞ!」
とチコが言った。
「な、なんだって?!」
「俺は金を持ってない!捕まれば殺される!逃げるなら今のうちだぞ!」
「チコ!どこへ行くんだ?危ないぞ!」
長沼が呼び止めようとしたが、チコは銃弾を掻い潜って逃げ出そうとした。
が、チコの背中から血煙が吹き上がった。
ゲリラ兵が背後から銃弾を浴びせたのだ。
「チコ!」
うつ伏せに倒れたチコはピクリとも動かない。
「そ、そんな……死んだ……」
人が殺されるのを見たのは生まれて初めてだ。言葉を失って震えていると、
「来い!こっちだ!逃げたら撃つぞ!早くしろ!」
ゲリラたちに引き立てられ、長沼と山田は他の車やバスの乗客たちと一緒にゲリラのトラックの荷台に押し込まれた。
「撤収するぞ!」
ゲリラが政府軍のジープやトラックに手榴弾を投げ入れた。
耳をつんざく爆発音とともに赤い炎と黒い煙が上がった。
道路のあちこちに射殺された死体が転がり、流れ出た血が生々しい。
トラックが激しく揺れながら走り出した。
まだ信じられなかった。自分たちがゲリラに拉致されてしまったことが。
(ああ……これから俺たちはどうなるんだろう?……)
頭の中は不安で一杯だった。トラックは舗装されていない凸凹の山道をバウンドしながら猛スピードで走っていく。

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