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Author:土屋正裕
画像は南米コロンビアの首都ボゴタ中心部のボリーバル広場。明星学苑卒。



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誰も知らない 第2話

どのくらい走っただろうか。
トラックから降ろされた長沼と山田は、他の人質たちとともに山道を何時間も歩かされ、ようやくゲリラの本拠地らしき場所にたどり着いたとき、ほとんど日が暮れていた。
「こっちだ!こっちに来い!もたもたするな!」
凶暴そうな髭面のゲリラに怒鳴りつけられ、人質たちはゲリラの司令官らしき男のいる小屋に連れて行かれた。
「お前たちは何人だ?」
順番が来ると、国籍を訊かれた。日本人と答えるのは嫌だったが、黙ってパスポートを差し出した。
「お前たちはハポネスか?」
猛禽類のような獰猛そうな目つきの男に問われて、「シー(そうだ)」と答えると、
「お前たちはプリソネーロ・デ・グエラ(捕虜)だ」
男の言葉を山田が日本語に訳して長沼に伝え、長沼の言葉を山田がスペイン語で伝えた。
「捕虜?冗談じゃない。何のつもりだ?」
「お前たち日本人はリコ(金持ち)だ。お前たちを捕虜にすれば高く売れる」
「レスカテ(身代金)を取ろうって言うのか?俺の家は金持ちなんかじゃないぞ」
「お前たちの家族に払わせるんじゃない。お前たちの国に払わせるんだ」
「日本政府に身代金を要求するのか?俺たちのために払うわけないじゃないか」
「いや、払うさ。日本政府は身代金を払う」
「何故、そんなことが言えるんだ?」
「日本はアメリカーノ(アメリカ人)と違って人は出さない。金は出せるが人は出せない。金を出すしかないんだ」
その言葉に、長沼は怒りを覚えながらも認めざるを得ない、と思った。
これがアメリカ政府ならテロリストと交渉せず、特殊部隊を送り込んで人質の救出作戦をするだろう。
しかし、日本政府にはそれができない。
憲法で海外派兵を禁じているし、事なかれ主義だから金で解決しようとする。
テロリストたちはそのことを知っているのだ。
アメリカ人より警戒心が薄く、しかもリッチで、政府は弱腰なのだ。
「一体、いくら要求するつもりなんだ?」
山田が冷静に尋ねた。司令官らしい男は薄笑いを浮かべ、
「ドスシエントス・ミロネス・ドラー(2億ドル)だ。お前たち二人合わせて2億。一人につき1億だ」
「2億ドルだって?!」
あまりの高さに思わず長沼が叫んだ。
「そんな大金、俺たちのために政府が払うわけないじゃないか!」
「払わせるさ。払うまでは解放しない。それだけのことだ」
「クソッ!!」
長沼は絶望感に打ちのめされた。
「さあ、こっちに来い!早くしろ!」
ゲリラに引きずり出された。

背中を押されながら連れて行かれたのは豚小屋のような粗末な小屋だった。
草で葺いた屋根はあるが、壁は板で囲っただけで、山田とともに入れられると外側から扉に閂(かんぬき)をかけられた。
どうにか立つことはできるが、歩き回れないような狭さだ。
照明もないし、トイレもない。
「おい!開けろ!俺たちをここから出せ!」
長沼は扉を叩いて叫んだ。
「無駄だよ、ナガヌマちゃん。じっとしておいた方がいい」
山田はいつでも冷静だった。
「くそっ……俺たち、これからどうなるんだろう?」
「なるようにしかならないさ」
「2億ドルなんて、ふざけてる!払えるわけないよ!」
「まあ、奴らだって、本当にそれだけ取れるとは思ってないだろうね。これから交渉して、少しずつ金額を下げていくはずだ。要求額の10分の1でも取れれば満足するんじゃないかな?」
「それでも2千万ドルだよ。俺たちのために政府が20億円も払うと思うか?」
「政府は事なかれだからね。払う可能性はあるね」
山田が客観的に分析した。
「ゲリラの目的は金だ。金が目的なら、俺たちを簡単には殺さないだろう」
「でも、もし政府が払わなかったら?」
「その時は殺すかもしれない。でも、二人なら見せしめにどっちか一人を殺して脅すだろうね」
「どっちかって……まさか、俺が先じゃないよね?」
山田は笑った。
「ハハハ……そんなこと心配したって始まらないさ。今は生きることを考えなきゃ」
長沼は、いつも落ち着いて事態を見極めようとする山田に感心した。
「そうだね。さすがはヤマさんだ。俺と考えることが違うね」
「人間は生まれてきた以上、いつかは死ぬ。だから、死ぬことは考えちゃダメなんだよ。そんなことは考えたってどうしようもない。まず、生きることを考えるんだ」
「生きることか……よし、生きよう。生きて日本に帰るんだ」
長沼は自分に言い聞かせるように言った。

夜が更けた。
長沼と山田は疲れ切っていたので眠ることにした。
が、むき出しの地面に、ベッドもなければ毛布一枚ない。
仕方なく板壁にもたれかかるようにして目を閉じたが、拉致されたことの衝撃と、これから先の不安で一睡もできない。
その上、猛烈な空腹が襲ってきた。拉致されてから水一滴、与えられていないのだ。
「ヤマさん、起きてる?」
たまらずに長沼が言った。
「起きてるよ」
「腹減ったね」
思わず腹が鳴った。この空腹をどうにかしなければ眠れそうにない。
「何か食わしてくれるよう頼んでみようか?」
「頼んでもいいけど、ここはホテルじゃないんだ。ルームサービスは期待できそうにないね」
山田の冗談に長沼も笑った。
「そうだね。ルームサービスの時間も終わっちゃったみたいだしね」
「とにかく、朝まで待とう。奴らだって殺す気がないなら何とかしてくれるだろう」
「おやすみ、ヤマさん」
「おやすみ」
とは言ったものの、長沼は一睡もできずに朝を迎えた。

夜が明けた。
「起きろ!これから出発だ!」
ゲリラが荒っぽく扉を開けて怒鳴った。
「どこへ行くんだ?」
ゲリラは答えない。
「早くしろ!殺されたいのか?」
「ちょっと待ってくれ!俺たちは昨日から何も食べてないんだ!」
「それがどうした?」
「何か食わせてくれ!アンブレ(空腹)で死にそうだ!」
「死んだら、腹も減らんだろ?」
ゲリラはニヤニヤ笑いながらカラシニコフ銃の銃口を向けた。
「この野郎……」
長沼は怒りを抑え、よろよろと立ち上がった。

長沼と山田の新たな旅が始まった。
まだ朝靄が漂っているうちにゲリラのキャンプを出発した。
昨日、一緒に拉致された人質たちも、いくつかのグループに分けられ、どこか別の場所に移されるらしい。
「なんで、こんなに急いで出発するんだろ?」
長沼は寝不足で充血した目をこすりながらぼやいた。
「政府軍が追ってくるんだろう。早く人質を安全な場所に移しておきたいのさ」
山田が言うと、ゲリラが「グアルダルロ(黙れ)!」と怒鳴った。

長沼と山田は15人のゲリラに連れられて山道を下った。
足場は悪く、疲労と空腹が重なり、長沼は何度も転んだ。
「お前たち、遅れたら、ここに置いていく!」
とゲリラの隊長に脅されていたので、足を止めるわけにはいかなかった。
泥まみれになりながら急な坂道を下り、ツルツルと滑る石ころだらけの小川を渡り、今度は上り坂……。
小学生の頃からサッカーに打ち込み、体力に自信はある長沼でさえ、
(こんなにキツイのは生まれて初めてだ)
と思った。

どのくらい歩いただろうか。
気がつくと、谷間の小さな村にいた。
ゲリラの支配下にあるのだろう。
銃で武装したゲリラたちが入ってきても、村人たちは怖がる様子もなかった。
その代わり、見慣れない長沼と山田に村人たちの視線が集中した。
「ここだ!お前たちは今夜、ここで寝るのだ!」
長沼と山田は、また家畜小屋のようなところに押し込まれた。
ここで初めて、食事らしい食事が与えられた。
アルミの皿に盛られたジャガイモとライスだった。
長沼も山田も夢中でかき込んだ。塩で味付けしただけのパサパサの米だったが、あっという間に平らげた。これだけではとても空腹を満たせなかった。
「お代わりしようか?」
「いや、空腹時にあんまり沢山食べると体に良くない。これで我慢しておこう」
「そうだね。ヤマさんは偉いなあ。いつも理性が働いて。俺も見習わないとなあ」
食事が済むと、睡魔が襲ってきた。他にやることもないので、二人とも眠った。

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