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誰も知らない 第12話

コロンビア中部・アンデスの山岳地帯にて――ゲリラのキャンプでは、二人の男が小屋の中で話し込んでいた。「ナガヌマが生きているというのは確かなのか?」「ああ、間違いない。奴は生きている」「奴は女と一緒にいるそうだな?」「カルロスを殺した女だ。奴の逃亡を手助けした」「奴らは今、サンタフェにいるのか?」「ああ、これがそのエビデンシア(証拠)だ」若い男が数枚の写真を机の上に並べた。写真を受け取ったゲリラの司令...

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誰も知らない 第11話

サンタフェでは1日に3,4人、多いときで5人から7人が殺される。仕事の依頼は後を絶たず、長沼はゲリラの協力者を何人も片付けた。良心の呵責は感じなくなっていたが、「14歳の少女を殺してほしい」と頼まれたときは、さすがにためらった。「あの少女はドロガディクト(麻薬中毒者)だ。生かしておいては為にならん」とロハスが言った。少女はバスーコという安物のコカインに手を出し、その代金を得るために盗みや売春をして...

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誰も知らない 第10話

長沼はサンタフェの町の目抜き通りをぼんやりと眺めていた。 子供たちが楽しそうにボールを蹴って遊んでいる。 無邪気な子供たちの笑い声が聞こえた。 (この子たちもいずれ、戦争に巻き込まれ、殺し、殺されるのだ) と思うと、やりきれなかった。 彼らの頭の中は真っ白だ。 染められれば何でもやる。 余計な考えがないから、やるときは残酷で、しかも容赦がない。 恐ろしいことだ、と思う。 これは思想や宗教、民族の対立から生...

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誰も知らない 第9話

長沼のゲリラを追う旅は続いた。激しい戦闘を重ねる中で、長沼は彼なりにコロンビアの内戦の実態をつかめてきていた。ゲリラとパラミリタールの戦いは、もはや政治的な対立ではなく、豊かな土地やコカ畑の権利を巡る縄張り争いに過ぎない、ということである。ゲリラもパラミリタールもコカインを主な資金源とする以上、コカ畑を広げるために農民たちを土地から追い出し、または農民にコカ栽培を強制してコカイン取引に課税するしか...

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誰も知らない 第8話

ここでコロンビア内戦の背景について少し触れておかねばなるまい。コロンビアは日本の3倍強という広大な国土を持ち、温暖な気候と肥沃な大地、豊富な資源に恵まれた国である。日本ではコーヒー豆の世界的な産地という印象が強いが、石油や石炭、天然ガス、金、銀、銅、ニッケルなどの地下資源も産出する。が、国民の7割はその日の食べるものにも困るという貧困層であり、中南米でも特に貧富の格差の激しい国である。300年近く...

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誰も知らない 第7話

「お前はチーノ(中国人)か?」パラの司令官が訊ねた。頬から顎にかけて大きな傷跡のある男だった。「ノー・エストイ・ハポネス(いや、日本人だ)」と長沼。きっと、事情を説明すれば助けてくれるだろうと思った。「お前たちはゲリラか?」司令官が酷薄そうな視線を射つけた。「違う!俺はゲリラなんかじゃない!レエン(人質)だ!逃げてきたんだ!」長沼は懸命に弁解した。ゲリラの仲間と間違われたら容赦なく殺されてしまうだ...

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誰も知らない 第6話

少女が持ってきたのはパンにケソ(チーズ)とサルチーチャ(ソーセージ)を挟んだものだ。「グラッシアス(ありがとう)」長沼は礼を言い、夢中して食べた。やわらかいパンだった。ケソは塩気がきいていて、サルチーチャの脂気も口の中でとろけた。こんなにうまいものを食べたのは何年ぶりだろうか。あっという間に食べ終わると、(ヤマさんにも食べさせてやりたかった)と思い、涙があふれた。「ムーチャス・グラッシアス!デリシ...

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誰も知らない 第5話

とうとう殺されるのだ。家畜以下の扱いを受けるくらいなら死んだ方がマシだと思っていたが、いざ自分が殺されるかもしれない状況に置かれてみると、長沼は自分でも情けなくなるくらい動悸が高鳴り、体中が勝手にブルブル震え出すのを感じた。「う、嘘だろ!俺は死にたくない!頼む!助けてくれ!」人間、死に直面するとこうも生にしがみつこうとするものなのか。生存本能がいとも簡単に理性やプライドを消し去ってしまうものなのだ...

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誰も知らない 第4話

1年半たった。この間、何人もの人質が解放されていった。「政府とゲリラの和平交渉が進んでいるらしい。うまくいけば俺たちも解放されるかも……」と期待を寄せたが、長沼と山田は経済大国・日本を代表する人質なのだ。あくまでも巨額の身代金奪取を目的とするゲリラにとって、そう簡単に手放せるわけがなかった。2年たった。単調な生活に少しでも変化をもたらすために始めたスペイン語の勉強で、長沼は今や通訳なしでも日常会話は...

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誰も知らない 第3話

「起きろ!これから出発だ!」ゲリラに叩き起こされ、長沼は目をこすりながら、「ええっ?だって、まだノーチェ(夜)だぜ……」「早くしろ!嫌なら人質は一人でいいんだぞ!」まだ外は真っ暗である。夜明け前から出発だ。「明るいと目立つからね。奴らも必死なんだろう」と山田が言った。夜が明けると、どこからかヘリコプターの爆音が聞こえてきた。長沼たちは昼でも薄暗い密林の中を歩いていたが、木々の間から軍用のブラックホー...

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誰も知らない 第2話

どのくらい走っただろうか。トラックから降ろされた長沼と山田は、他の人質たちとともに山道を何時間も歩かされ、ようやくゲリラの本拠地らしき場所にたどり着いたとき、ほとんど日が暮れていた。「こっちだ!こっちに来い!もたもたするな!」凶暴そうな髭面のゲリラに怒鳴りつけられ、人質たちはゲリラの司令官らしき男のいる小屋に連れて行かれた。「お前たちは何人だ?」順番が来ると、国籍を訊かれた。日本人と答えるのは嫌だ...

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誰も知らない 第1話

誰も知らない大学生の長沼寛人と山田陽介は夏休みを利用して、南アメリカ大陸をヒッチハイクで縦断する旅に出発した。長沼と山田は高校の同級生で、大学は別々だったが、山田はスペイン語を学んでおり、長沼はジャーナリストになりたいという夢に向かって勉強していた。無謀とも言える冒険旅行に両親の強い反対を押し切って出発した理由は、「どうせ大学を出て社会に出たら、こんなことは経験できないんだ。今のうちにいろんなこと...

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プロフィール

土屋正裕

Author:土屋正裕
画像は南米コロンビアの首都ボゴタ中心部のボリーバル広場。明星学苑卒。

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